
FDEを外注する前に知りたいこと|判断基準と依頼前の準備
FDEの外注では、業務の整理から実装・定着までの実務を任せられますが、着手する業務や成果の測り方の判断には、自社が主体的に関わる必要があります。契約の形、外部のFDEと協働する際の注意点、外注するかの判断基準、依頼前の準備まで、SI・コンサルティング会社15社のFDE求人の分析とあわせて解説します。
「AIを業務に組み込みたいものの社内に実装を担える人がいないため、現場に入り込んで実装まで担う外部のFDEに依頼したい」。そう考える企業にとって最初の論点は、どこまでを任せられ、どこからを自社が担うべきかという線引きです。
業務の整理から実装、現場への定着までの実務は、外注先に任せられます。一方で、どの業務から着手するか、何をもって成果とするかといった判断は、外注先の提案を受けながら、自社が主体的に関わって決める必要があります。判断まで任せきりにすると、仕組みは動いても、次にどの業務を変えるかを自社で判断できず、改善のたびに外注先に依存することになるためです。
あわせて、契約が終わったあとも自社で運用を続けられるよう、業務を選んだ理由やデータの置き場所など、社内に残すものを依頼の段階で取り決めておくことが欠かせません。
FDEの外注とは?
FDEの外注とは、完成品を買うことではなく、業務の整理から実装、現場への定着までを担う実行者を、外部から迎え入れることです。
FDEについては、以前の記事『FDEとは?年収・必要スキル・キャリアパスと企業が確保する方法』で、仕事内容や年収まで解説しました。定義を改めて確認すると、FDE(Forward Deployed Engineer)とは本来、自社のプロダクトを持つ企業に所属しながら顧客の業務の現場に入り込み、課題の特定からAIの実装、運用の定着までを担うエンジニアです。国内では、自社の製品を前提にしないSI・コンサルティング会社も、同様の職をFDEの名で募集しています。
このため、外部から迎えるFDEは、所属する会社によって、製品を提供する会社のFDEと、SI・コンサルティング会社のFDEの2つに大別できます。導入する製品が決まっていれば前者、製品の選定から任せたい場合は後者が適しています。迎え方ごとに案件の終了後に何が残るかと、発注時に決めておくべき3つの点は、以前の記事『FDEニーズはなぜ急増している?国内73社の求人を徹底分析』で整理しました。本記事で「外注」として扱うのは主に後者ですが、外注が終わったあと社内に何を残すかという考え方は、どちらから迎える場合も変わりません。
外注先に任せられる範囲は、おおむね次のとおりです。
- 対象業務の棚卸しと、着手する業務の候補の整理
- ツールの選定と、実際に動く仕組みの実装
- 現場で使える形への調整と、利用状況の確認
- 運用開始後の改善
社内にエンジニアがいなくても依頼はでき、技術者の採用から始める必要もありません。外注先は、着手すべき業務を根拠とともに提案できます。ただし、そのなかから自社にとっての優先順位は、外注先と議論しながら、発注側が主体となって決める必要があります。
受託開発・SESとの違い
外部に開発を依頼する方法には、FDEのほかに受託開発やSESがあります。これらとの分かれ目は、何を作るかが決まる前の段階から関われるかどうかと、契約が終わったときに何を受け取るかにあります。
受託開発では、決めた要件どおりに完成したシステムを受け取ります。SESで提供されるのは、技術者が決められた範囲で作業した時間です。これに対してFDEの外注では、業務の中で実際に使われる状態まで仕上げた仕組みを受け取ります。受託開発は、作るものと要件が明確な場面では効率的ですが、AI活用のように「何を作れば成果につながるか」から考える場面では、仕様を先に固めること自体が難しくなります。FDEの外注は、要件が固まっていない段階から関われる点に違いがあります。
SESやSIerなど職種としての違いは『FDEとは?年収・必要スキル・キャリアパスと企業が確保する方法』の「他の職種との違い」の章で、依頼先ごとに引き受ける範囲は、以前の記事『AI推進の進め方|個人のAI活用を、組織の成果に変える5ステップ』の表で整理しています。
請負・準委任・派遣の違い
外注を決めたら、次に検討するのが契約の形です。社外に仕事を依頼する契約には、仕事の完成を目的とする請負と、業務の遂行を目的とする準委任があります*1。人材を受け入れる労働者派遣は、これらとは別の仕組みです*2。それぞれの目的と作業の指示を出す主体を、厚生労働省の疑義応答集と経済産業省のAI契約のチェックリストの説明から整理し、向く場面を添えると次のようになります。
| 契約の形 | 何を目的とするか | 担当者に作業の指示を出すのは | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 請負 | 仕事の完成 | 受注側 | 作るものと完成の基準が決まっている |
| 準委任 | 業務の遂行(成果に応じて報酬を払う型もある) | 受注側 | 何を作るかを、進めながら決め直す |
| 労働者派遣 | 派遣先の指揮命令を受けて、派遣先のために働くこと | 派遣先(自社) | 作業の中身を自社で指示できる |
請負と準委任では、受注側が負う責任も異なります。経済産業省のチェックリストは、準委任では受注側が善管注意義務(専門家として注意を尽くして業務を行う義務)を負い、請負では仕事の完成義務と契約不適合責任(納めたものが契約の内容に合わない場合に負う責任)を負う点を、一般的に重要な違いとしています。そのうえで、この民法上の区分は当事者間に合意がない場合の補充的なルールにすぎず、成果の内容や水準をどの程度求めるかのほうが重要な論点となる場合が少なくない、とも指摘しています*1。
IPA(情報処理推進機構)と経済産業省が公開するアジャイル開発のモデル契約は、準委任を前提にしています*3。開発の途中で機能や優先順位が変わる進め方には、決めた成果物の完成に対価を払う請負よりも、業務の遂行そのものに対価を払う準委任がなじみやすい、という理由です。何を作るかを現場で見極めながら進めるFDEの外注も、事情は近いといえます。
外部のFDEと協働する際の注意点
FDEを外注すると、外注先の担当者が社内の定例やチャットに加わり、社員と同じチームで動く場面が増えます。そこで注意したいのが、請負や準委任で迎えた担当者に、社内の人が直接作業を指示してしまうことです。厚生労働省の疑義応答集は、請負などの形をとりながら、実態として発注者が受注者の雇用する労働者に「直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合」をいわゆる偽装請負とし、労働者派遣法に違反するとしています。準委任でも同様で、派遣にあたるかどうかは契約の形式ではなく、実態で判断されます*2。
一方で、疑義応答集は協働すること自体を否定してはいません。もとはアジャイル型開発を想定した問答ですが、2026年5月には、アジャイル型以外のシステム開発を請負で行う場合にも当てはまるとする回答が加わりました*2。要点は次のとおりです。
- 情報の共有や技術的な議論、助言・提案をしていても、対等な関係で協働し、受注側の担当者が自律的に判断して進めていれば、偽装請負と判断されるものではない(Q2・Q5)
- 発注側の責任者が、要件をはっきりさせるために説明や情報提供をしても、それだけで直ちに偽装請負と判断されるわけではない(Q4)
- 会議やチャット、プロジェクト管理ツールに双方の全員が参加していても、考え方は同じ(Q6)
- 作業の割り振りや順序、急ぎの調整を指示する必要があるときは、受注側が管理責任者を選ぶなどして、受注側が指示する(Q3)
- 発注側が特定の人を指名したり、特定の人の参加を断ったりすると、適正な請負等とは認められない(Q7)
疑義応答集は、偽装請負と判断される事態を防ぐ方法として、双方の役割や権限、チーム内の進め方をあらかじめ明確にし、合意しておくことを挙げています*2。FDEの外注に当てはめれば、作るものの要求とその優先順位は発注側の責任者が決め、作業の進め方や順序は外注先の担当者が自ら判断する(Q4)、という分担を着手前に取り決めておくことです。作業の割り振りや順序について指示が必要になった場合は、外注先の管理責任者が指示を出します(Q3)。個別の契約や運用が適正かどうかは内容と実態によって変わるため、判断に迷う場合は法務の担当者や都道府県労働局に確認してください*4。
外注するかの判断基準
日本企業にとって、開発を外部に委ねること自体は珍しくありません。総務省の調査では、「ほぼすべての開発を外部ベンダーに委託」していると答えた日本企業は25.0%で、米国の2.6%を大きく上回りました。自社主導で開発していると答えた企業は、日本が46.0%にとどまる一方、米国・ドイツ・中国は約80%に達しています*5。回答者は、従業員10名以上で2025年までにデジタル化に取り組み始めた企業の管理職以上です。設問はAIに限らず、システム開発全般を対象としています。
外部への依存度が高い分、どの判断を社内で担うかを決めないまま依頼すると、判断まで外部に委ねることになりかねません。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が上場企業などのIT部門長に尋ねた調査では、システム企画(システム化構想の策定)を主に社内で担う企業が70.9%だった一方、設計・実装・テストは63.4%が主に外部に委託していました*6。何を作るかは社内が主導し、作ることは外部に任せる。AIを業務に組み込む場面でもこの分担を築けるかどうかが、外注するかを決める基準になります。
外注先の提案を評価できる人が社内にいるか
最も重要なのは、外注先の提案が自社の業務に合っているかを評価し、外注先と一緒に優先順位を決められる人が社内にいるかどうかです。
この役割を担う人は、エンジニアである必要はありません。外注先の提案のうち、どれが自社に必要で、どれを後回しにできるかを、外注先と議論しながら見極められる人であれば務まります。現場をよく知る管理職でも担えます。IPAと経済産業省のアジャイル開発のモデル契約も、発注側が「プロダクトオーナー」を選ぶ体制を想定し、契約前の確認項目に「適切なプロダクトオーナーを選任し、権限委譲ができるか」を挙げています*3。プロダクトオーナーとは、作るものの要求の一覧と、その優先順位を決める発注側の責任者です*2。
こうした人がいないまま依頼すると、提案の良し悪しを確かめられないまま任せ続けることになります。その場合も外注は可能ですが、提案を評価できる人を育てることを、依頼の範囲に含めておくべきです。
継続して改善する業務か、一時的な業務か
その業務で今後も改善を重ねていくなら、外注は社内で運用できるようになるまでの期間と位置づけ、担い手を社内に育てる前提で依頼します。改善を重ねる業務ほど、なぜそう設計したのか、何を試して成果が出なかったのかが次の判断材料になり、その材料を持つ人が社内にいる意味が大きくなるからです。
反対に、発生頻度の低い業務や、将来縮小する見込みの業務であれば、必要なときだけ外部に依頼するほうが柔軟に対応できます。継続して改善する業務かどうかを決めないまま人材を採用して内製に踏み切ると、対象の業務が一つしかないまま、人件費だけが毎月かかり続けることにもなりかねません。外注か内製かを決める前に、その業務の量や重要度が今後どこまで増えそうかを見積もっておくことが出発点になります。
外注より別の方法が向く場合
FDEの外注が最適とは限らない場面もあります。作るものと要件がすでに固まっているなら、受託開発で十分です。導入する製品が決まっているなら、その製品を提供する会社のFDEに依頼するのが適しています。自社の業務をAI前提で継続的に作り直していきたいなら、外注は立ち上げの期間に限り、担い手を社内に置く方向で検討します。採用・育成・外部活用の使い分けは、以前の記事『FDE育成について徹底解説。採用・外部活用との使い分けと、育成の進め方』で整理しました。
外注が終わっても社内に残すもの
外注が終わった翌月、次の業務に自社で着手できるかどうか。それを左右するのは、動いている仕組みよりも、判断の材料が社内に残っているかどうかです。
以前の記事『AI推進の進め方|個人のAI活用を、組織の成果に変える5ステップ』では、外部の力を借りたときに残すべきものを、5つのステップの成果物として整理しました。外注の場合はとくに、次の4つを契約と日々の進め方のなかで確保していきます。
その業務を選んだ理由
最初にその業務を選んだ判断の過程を、社内に残します。
仕組みだけを受け取っても、次にどの業務へ広げるかは自社で決められません。判断の過程が残っていれば、同じ基準で2つ目、3つ目の業務を選べます。記録には、候補に挙がった業務の一覧、選ばなかった業務とその理由、判断に使った基準(かかっている時間、発生頻度、ミスの起きやすさなど)を含めます。
成果の測り方
成果の測り方は、外注先の知見を借りながら決めて構いません。ただし、外注先と議論しながら自社が主体となって決め、指標と測定の記録は自社の手元に置きます。評価の軸まで任せきりにすると、成果が出たかどうかを自社で判断できず、契約を続けるかどうかも相手の報告に依存することになるためです。
指標は簡素なもので十分です。処理にかかっていた時間、対応漏れの件数、担当者以外でも業務を回せるようになったかどうか。この程度の指標を着手前に合意しておくだけで、契約の継続を自社の数字で判断できるようになります。
例外が出たときの決め方
想定外のケースが起きたときに誰がどう判断するか、そのルールを社内で持ちます。
型の決まった処理は仕組みに任せられても、例外のたびに外注先へ問い合わせる形では、運用が相手の稼働状況に左右されます。例外が生じたら、その際の判断と理由を記録し、二度目からは社内で判断できる状態をつくります。
データ・設定・プロンプトの所有と保管場所
業務データや設定、プロンプトを誰が保有し、どこに置くかは、契約の時点で決めます。
後から移そうとしても、どこに何があるかは外注先に聞かなければ分かりません。仕組みが動いていても、中身に自社で手を入れられなければ、改善は外注先に依存し続けることになります。
経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」は、AIシステムの開発を委託する際の留意点として、提供するデータ(インプット)と開発の成果(アウトプット)の扱いを挙げています*1。データについては、外注先がそれを外注先自身の技術開発にも使いたいと望んだ場合に、認めるか、認めるならどの範囲までかを検討する必要があるとし、成果については、権利の帰属と利用条件を「ユーザとベンダの利害が先鋭的に対立しやすい事項」と位置づけています。とくに外注先のAIシステムやサービスと組み合わせて使うものを開発する場合、新たに生まれた成果と外注先が元から持っていたものとの区別は後で争点になりうるため、開発の初期に認識をすり合わせることが重要だとされます。
IPAと経済産業省のアジャイル開発のモデル契約は、新たに作成された著作物の著作権を発注側に移す案を本案としています。ただし、外注先が作成した汎用的に利用できるプログラムは、移転の対象から除いています。別案として、著作権を外注先に帰属させる案や共有とする案も示しています*3。どの案を採るかは交渉次第ですが、少なくとも次の点は契約前に確認します。
- データ・設定・プロンプトの保管場所
- 外注先が、提供したデータを外注先自身の開発に使うかどうか
- 開発の成果物の権利がどちらに帰属するか
- 契約終了後のデータや成果物の扱い
- 自社の担当者が中身を読み、編集できる状態にあるか
依頼前の準備
要件定義書は不要です。求められるのは、その業務をいまどのように回しているかを説明できることです。
外部の担い手を迎える前に決めておくこと(現場とデータへのアクセス範囲、意思決定を委ねる範囲、成果の測り方、引き継ぎのゴール)は、以前の記事『【完全版】AI人材 採用・育成・活用チェックリスト50|設計から成果創出までの全ステップを解説』で整理しました。依頼前に用意するのは、これらを外注先と詰めるための材料です。
用意するもの・用意しなくてよいもの
依頼の前に、次の5点を用意しておきます。
- 現在の手順(誰が、どの順番で、何を使って処理しているか)
- 関わっている人数と、月あたりの作業時間
- どうなれば成功といえるか(一文で書ける仮の目標)
- 外注先が見てよい現場と、触れてよいデータの範囲
- 社内の窓口となる担当者
反対に、機能の一覧や画面のイメージ、使うツールの選定結果は、先に用意しないほうが進めやすくなります。発注側だけでこれらを決めてしまうと、本来の課題からずれたものを作る方向で議論が固まりやすいためです。
たとえば「案件管理の画面がほしい」という依頼の背景に、入力の粒度が担当者ごとに異なるという課題が隠れていたとします。現在の手順と作業時間を先に示しておけば、画面の話に入る前に、こうしたずれを見つけられます。
外注先の求人に書かれている範囲
外注先が自らの仕事の範囲をどう捉えているかは、FDEの求人にも表れます。国内でFDEを募集するSI・コンサルティング会社など15社の求人を読み、FDEが顧客企業に対して担う仕事として何を挙げているかを数えました。
外注先のFDE求人の判定(2026年10月)/AI Ops Manager調べ、2026年10月1日時点
- 対象:以前の記事『FDEニーズはなぜ急増している?国内73社の求人を徹底分析』の定点集計(2026年9月)で、求人の出し手を「SI・コンサルティング・受託開発」に分けた16社
- 確認先:各社の採用ページにある求人の本文(2026年10月1日に取得)
- 数え方:企業単位で、1社につき求人1件。FDEが顧客企業に対して担う仕事として、業務の整理、運用と定着、成果の指標、社内への引き継ぎの4つのそれぞれを書いているか
- 除外:求人の掲載が終わっていた1社
- 判定の方法:仕事内容や役割の説明にその趣旨が書かれていれば数える判定と、職務として明確に書かれたものだけを数える判定を独立に行い、両方で当てはまったものだけを数える*7
業務の整理から入ると書いていたのは13社、本番の運用や業務への定着まで担うと書いていたのは11社でした。一方、成果の指標を顧客と決める、または測ると書いていたのは4社、顧客が自分たちで運用・改善できる状態にすることを仕事として書いていたのは1社でした。その1社は、研修やワークショップを通じて「自走できる現場」をつくると書いています。
求人は採用のための文書であり、契約で何を約束するかとは別物です。書いていない会社が引き継ぎをしないとは限りません。それでも、引き継ぎと成果の測り方は、発注側から依頼の範囲に含めるよう求めるのが確実です。
外注先に確かめること
確かめるべきは「現場に入ってくれるか」ではなく、「契約が終わったとき、自社に何が残るか」です。次の点を尋ねると、外注先ごとの違いが見えてきます。
- 最初に機能ではなく、業務の流れを聞き取るか
- 一つの業務から小さく始めて広げる進め方を提案するか
- 見積もりに、業務の棚卸しから運用開始後の改善までのどこが含まれ、稼働の内訳を発注側が確認できるか
- 成果の測り方を着手前に一緒に定め、その指標で報告するか
- 業務の整理の結果を、発注側が読める形で渡すか
- 社内の担当者が判断できるようになるまで関わり、そのゴールを契約に明記できるか
費用は金額の大小ではなく、その金額に業務の整理、実装、定着の支援のどこまでが含まれているかで比べます。同じ月額でも、実装だけを請け負う契約と、業務の整理から現場への定着までを含む契約とでは、意味が異なります。成果と報酬を結びつける方法もあります。準委任にも成果に応じて報酬を支払う型があり、IPAのモデル契約の解説は、売上金額や削減できた経費額といった指標を定め、達成した場合に通常の報酬に加えて成果報酬を支払う定め方を例に挙げています*3。
社内への引き継ぎ方
外注先と並走して日々の処理が回り始めると、どこから社内で引き取るかを決める段階に入ります。引き取るべきは作業ではなく判断です。作業だけを引き取っても、何をどう変えるかを決められなければ、運用はいずれ止まります。
移す順番は、負担が軽く型の決まったものから始めるのが無理のない進め方です。
| 段階 | 自社が担うこと | 外注先が担うこと |
|---|---|---|
| 1. 仕組みを作り、成果が出ることを確かめる | 優先順位と成果の測り方を、外注先と一緒に決める | 業務の整理、実装、現場に合わせた調整 |
| 2. 日々の処理を移す | 型の決まった日々の処理(外注先と並走して確かめる) | 並走と、滞った箇所の手直し |
| 3. 例外の判断を移す | 想定外のケースの判断と、その記録 | 判断の相談と、仕組みの改善 |
| 4. 次の業務を社内で決める | 次にどの業務へ広げるかの判断 | 新しい仕組みの設計や技術の選定など、専門性の高い領域の相談 |
移す時期は暦で区切らず、運用が安定したかどうかで判断します。期限に合わせて準備が整わないうちに移せば、元に戻すことになります。
新しい仕組みの設計や技術の選定は、外部に任せ続けてよい領域です。日常的に発生する仕事ではなく専門性も高いため、社内で常に抱えるより、必要なときに相談するほうが現実的です。すべてを社内に取り込もうとせず、どこまでを外部に頼み続けるかを先に決めておけば、必要な場面で外部の知見を活用できます。
AI人材の確保というと、採用や研修、派遣が思い浮かびます。しかし、業務の中に入って実装と定着まで担う人と組み、優先順位は初めから外注先と議論しながら自社が主体となって決め、例外の判断や次の業務の選定を一つずつ社内に移していく。そうした形の外注であれば、外から人を迎えること自体が、社内に担い手を育てる方法になります。
まとめ
FDEの外注とは、成果物を買うことではなく、業務の整理から定着までを担う実行者を外から迎えることです。
- 外部に任せられるのは実務。どの業務から着手するか、何をもって成果とするかは、外注先の提案を受けながら自社が主体的に関わって決める
- 請負や準委任で迎えた担当者に、社内から直接作業を指示しない。役割と権限、進め方を着手前に合意しておく
- 業務を選んだ理由、成果の測り方、例外の判断のルールを日々の進め方のなかで社内に残し、データ・設定・プロンプトの所有と保管場所は契約で決める
外注先を探す前に、まず対象となる業務を一つ決め、現在の手順と月あたりの作業時間を書き出し、外注先と一緒に優先順位を詰める担当者を社内に一人置いてください。それだけで、見積もりを比べる軸も、外注先に確かめるべきことも明確になります。AI推進を、外に委ねて待つのではなく、中に入って一緒に動かす。外注もまた、その形で進められます。
よくある質問
Q. 社内にエンジニアがいなくてもFDEを外注できますか?
できます。実装は外注先が担うため、技術者を採用してから始める必要はありません。ただし、外注先の提案を評価し、一緒に優先順位を考える担当者は社内に必要です。この役割は、エンジニアでなくても務まります。
Q. 要件が固まっていなくても依頼できますか?
依頼できます。何を作るべきかが定まっていない段階から業務の整理に関われる点が、受託開発との違いです。分厚い要件定義書よりも、いまの業務の回し方を説明できることのほうが役に立ちます。
Q. 外注したFDEに、社内の担当者が直接作業を頼んでもよいですか?
請負や準委任で迎えた外注先の担当者に、社内の人が直接、作業の進め方や時間を指示すると、偽装請負にあたるおそれがあります。一方で、厚生労働省の疑義応答集は、情報の共有や技術的な議論をしていても、対等に協働し、受注側の担当者が自律的に判断して進めていれば、偽装請負と判断されるものではないとしています*2。作業の割り振りは外注先の管理責任者が行うと、着手前に取り決めておきます。
Q. 外注するとノウハウは社内に残らないのでしょうか?
契約の設計次第です。仕組みだけを受け取れば残りませんが、業務を選んだ理由、成果の測り方、例外の判断のルールを社内に残す前提で進め、データとプロンプトの所有と保管場所を契約で決めておけば、外注を続けながら、判断する力を社内に蓄えられます。
Q. FDEの外注と業務委託は何が違いますか?
業務委託は外部に仕事を任せる契約の呼び方で、FDEは担い手の役割を指す言葉です。FDEを外注する場合も、契約は請負か準委任かを別途選びます。何を作るかを進めながら見直していく仕事には、準委任のほうがなじみやすいとされています*3。
Q. 小さく試すならどの業務から任せるべきですか?
毎日繰り返していて、かかっている時間を数えられる業務が向いています。入力、転記、集計のように、1回は短くても回数が多く、合計の作業時間が大きい業務は、効果を確かめやすく、成果の測り方も決めやすいためです。
出典
- *1経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(2025年2月)4.3「開発型に関する留意点」
- *2厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)に関する疑義応答集(第3集)」(2026年5月25日更新。アジャイル型以外のシステム開発への適用を問う Q8 を追加)
- *3IPA(情報処理推進機構)・経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書(アジャイル開発版)」アジャイル開発外部委託モデル契約(解説付き)(2020年3月公開、2025年4月8日更新)。準委任を前提とする理由はⅠ、契約前のチェックポイントはⅢ、著作権の帰属は第17条、成果報酬型の準委任は別紙「8. 委託料及び支払方法」の解説
- *4厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」。疑義応答集に関する問い合わせ先は都道府県労働局
- *5総務省「令和8年版 情報通信白書」第Ⅱ部 関連データ「システム開発の内製化状況(各国比較)」(2026年7月)。企業向けアンケート(2026年1〜2月)。アンケート調査会社のモニターのうち、従業員10名以上、かつ2025年までにデジタル化の取組を開始した企業に勤める管理職以上が回答(有効回答 日本515、米国・ドイツ・中国 各309)。自社主導は「ほぼすべての開発を自社エンジニアで実施」と「主に自社エンジニアで開発、一部の開発を外部ベンダーで実施」の合計
- *6日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書2026」図表7-2-3「工程別 システム開発の内製/外部委託度合い」(2026年3月)。東証上場企業とそれに準じる企業のIT部門長が回答(調査 2025年9月5日〜10月24日。システム企画 n=886、設計・実装・テスト n=884)。内製は「ほぼ内製」と「内製が多い」、外部委託は「ほぼ外部委託」と「外部委託が多い」の合計
- *7外注先のFDE求人の判定(2026年10月1日時点)。国内FDE求人 定点集計(2026年9月)で「SI・コンサルティング・受託開発」に分けた16社のうち、10月1日に求人を掲載していた15社の求人を各社の採用ページで確認(1社につき求人1件)。判定の基準は、業務の整理から入る/本番の運用・業務への定着まで担う/成果の指標を顧客と決める、または測る/顧客が自分たちで運用・改善できる状態にする(製品の操作方法の説明だけは含めない)の4つ

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