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AI人材 採用・育成・活用チェックリスト50

【完全版】AI人材 採用・育成・活用チェックリスト50|設計から成果創出までの全ステップを解説

AI人材の採用・育成・活用を進めるためのチェックリスト50項目です。活用目的の定義、必要な人材像の見極め、採用・育成・外部委託の選び方から、多くの企業が止まる実装・定着の確認項目までを、7つの段階に沿って整理しました。

AI Ops2026/08/17

「AI人材が足りない」「採用を始めたいが、何から決めればいいのかわからない」。AI活用が経営の課題として扱われるようになった一方で、人材確保の進め方には決まった型がまだありません。

本記事では、AI活用の目的設計から、必要な人材像の見極め、採用・育成・外部委託による確保、そして多くの企業が止まる「実装・定着」までを、7つの段階・全50項目のチェックリストとして整理しました。自社がどこまで進められているか、どこに抜けがあるかを確認する判断材料としてお使いください。

先に、なぜ後半の「実装・定着」に最も多くの項目を割いているのかを示しておきます。総務省の「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月公表)によると、何らかの業務で生成AIを利用している企業は日本で86.4%に達しました(調査対象は従業員10名以上でデジタル化に着手済みの企業、日本 n=477)。ところが同じ調査で、「生成AIによる業務変革に組織的な取り組みはない」と答えた企業は27.0%にのぼります。米国は1.4%、ドイツは4.9%です。ツールは入ったのに、業務そのものは変わっていない。この落差を埋められるかどうかが、チェックリスト後半の主題です。

生成AIによる業務変革に「組織的な取り組みはない」と答えた企業の割合。日本は27.0%と、米国1.4%・ドイツ4.9%に比べて突出して高い
出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月公表、調査は2026年1〜2月実施)をもとに作成

なお、AI人材の定義や種類、必要なスキルの詳細は、別記事「AI人材とは?種類・スキル・育成のポイントと、現場で実装・定着まで担う新しい選択肢」で整理しています。本記事はその内容を前提に、「では自社は何を決め、何から着手するのか」を確認するための実務用チェックリストです。

このチェックリストの使い方

50項目は、AI活用の目的設計から効果測定までの7つの段階に沿って並んでいます。上から順にすべてを埋める必要はありません。まず全体の地図を持ってから、自社の状況に合わせて使ってください。

段階項目数うち★★★確認すること
① AI活用の目的と対象業務64何のために、どこから
② 必要なAI人材像の見極め63誰が必要か
③ 確保方法の選定83どう確保するか
④ 採用による確保52採用する場合の実務
⑤ 社内育成による確保52育成する場合の実務
⑥ 実装・定着136誰が現場を動かすか
⑦ 効果測定と全社展開72成果をどう広げるか
合計5022

重要度は3段階で示しています。

  • ★★★:成果への影響が大きい項目。まずこの22項目だけを通しで確認すると、着手の優先順位が見えてきます
  • ★★:体制や運用に関わる項目
  • ★:整えておくとより望ましい項目

担当欄は「誰が決めるか」を示しています。決める人が決まっていない項目は、たいていその工程自体が止まっています。チェックが付かない理由が「やっていない」ではなく「誰の仕事か決まっていない」である場合、まずそこから手を付けることになります。

最後に、章ごとにチェックが付いた項目の割合を出してみてください。最も低い章が、いま自社を止めている場所です。

① AI活用の目的と対象業務を定めるチェックリスト

AI人材の確保に着手する前に、「何のためにAI人材が必要なのか」を明確にすることが出発点になります。目的が曖昧なまま採用や育成を進めると、確保した人材の力を活かせません。

よくある失敗が、「AIに詳しい人がいれば何とかなるだろう」と、目的や対象業務を定めずに人材の確保だけを先に進めてしまうケースです。入社・配属した人材が「何を解決すればいいのか分からない」状態に置かれ、力を発揮できないまま時間が過ぎていきます。

対象業務は一つに絞ります。複数を同時に走らせると、どれも試験的な導入の段階で止まりやすくなります。小さくても実装まで到達した経験が、次の業務へ広げるときの土台になります。

成果の測り方も、着手前に決めておく必要があります。工数削減で見るのか、リードタイムで見るのか、利用率で見るのか。ここを決めないまま始めると、⑦の効果測定の段階で「やってみたが成果があったか分からない」という状態になります。

目的とKPIは、採用やAI推進の担当だけで抱え込まず、経営層の合意を得たうえで社内の主要メンバーに共有しておきます。合意形成が不十分だと、後になって「なぜこの業務にAIを使うのか」という説明を都度求められ、推進の速度が落ちてしまいます。

No担当重要度チェック項目
1経営層/AI責任者★★★AI活用で解決したい事業課題を、対象業務の名前まで具体化しているか?
2経営層/AI責任者★★AI活用の主目的(生産性向上/コスト削減/新規価値創出)を一つに決めているか?
3AI推進担当★★★最初にAIを実装する対象業務・対象部署を1つに絞り込んでいるか?
4AI推進担当★★★成果の測り方(工数削減/リードタイム/利用率など)を、着手前に数値で定義しているか?
5経営層★★★AI活用の目的とKPIについて経営層の合意を得ているか?
6AI推進担当★★目的・KPI・対象業務を現場に共有し、都度の説明が要らない状態にしているか?

② AI人材の種類から必要な人材像を見極めるチェックリスト

AI人材と一口に言っても、担う役割は同じではありません。自社に必要なのがどの役割かを取り違えると、採用も育成も的を外します。

AI人材の役割は3つに分かれる

AI人材の中身を役割で分けると、次の3つに整理できます。

役割何をする人か主な職種名
組織に入れて動かす人現場の業務を分析してAIで再設計し、実装から定着・教育まで担うAI推進担当、AIオペレーションマネージャー、AI活用推進リード(AI Enablement Lead)
つくる人(応用)既存のAIモデルを前提に、業務システムやAIエージェントを組むAIエンジニア、FDE(フォワードデプロイドエンジニア)
つくる人(基礎)モデルそのものを研究・開発し、新しい手法を生み出す機械学習エンジニア、リサーチサイエンティスト

一般に「AI人材」と聞いて思い浮かぶのは三つめでしょう。しかし多くの企業にとって、最初に必要になるのは一つめです。研究や開発は外部の力も借りられますが、自社の業務に引きつけて活用を設計し、現場に根づかせる役割だけは、外部に任せて結果を受け取るわけにはいきません。

この偏りはデータにも表れています。IPA(情報処理推進機構)が2025年6月に公表した「DX動向2025」によると、日本企業が「不足している」と答えた割合が最も高かったのは、データマネジメントを企画・推進できる人材(73.2%)、現場を知りAI導入を推進できる従業員(71.6%)、AIでデータを分析して事業に活かせる従業員(71.1%)でした。一方、先端的なアルゴリズムを開発するAI研究者の不足を訴えた企業は41.0%と7種類のなかで最も低く、56.4%は「自社には必要ない」と答えています。

なお、経済産業省とIPAが策定した「デジタルスキル標準」に、AI人材という類型はありません。AI人材の像は国の標準として定められたものではなく、実際に生まれている職種から読み取るほかないのが現状です。

求められるのは、業務を読み解いて組み替える5つの力

役割によって重心は変わりますが、業務にAIを入れて成果を出す役割に限れば、土台になる領域は共通しています。プログラミングや統計の専門性より、業務を読み解いて組み替える力が前に来る点が、従来のIT人材像との違いです。

スキル・知識内容
AIツールの実務力生成AIを実務で使いこなし、業務自動化ツールを組み合わせて仕組みをつくる。月単位で変わる技術動向を追い続ける
業務プロセス設計業務フローを分析して詰まりを特定し、AIを前提に手順を引き直す。投資対効果を数字で示す
プロジェクト推進複数部門をまたいで関係者を動かし、実装まで運ぶ。導入後の運用まで見届ける
教育・浸透非エンジニアにわかる言葉で説明し、現場が自分で使える状態をつくる
法規制・倫理のリテラシー個人情報保護法や著作権法など、扱ってよいデータと使い方の範囲を判断する

機械学習やデータサイエンスの専門性が不要になったわけではありません。自社でモデルを開発する場合には引き続き必要です。ただ、多くの企業が最初に直面する課題は「どの業務をAIでどう組み替えるか」であり、そこを担える人がいなければ、技術者だけをそろえても活用は進みません。

社内で育てる領域と、外から入れる領域を分ける

5つの力のうち、業務プロセス設計と教育・浸透は、自社の業務を知っている人ほど有利です。どの工程に何時間かかっていて、誰が承認して、なぜその手順なのか。この知識は外から来た人がすぐには持てません。既存の業務改善担当や、部門で頼られている中堅がそのまま候補になります。

一方で、AIツールの実務力と実装は、独学だと立ち上がりが遅くなります。使える道具が月単位で変わるため追いかけ続ける負荷が高く、社内に教えられる人がいなければ、試行錯誤の時間がそのままコストになります。

つまり、必要な力をひとまとめに考えるのではなく、どこを自社で育て、どこを外から持ってくるかの配分を先に決めることになります。全部を自前でやろうとすると時間が足りず、全部を外に出すとノウハウが残りません。この配分が、次の③で選ぶ確保方法をそのまま規定します。

No担当重要度チェック項目
7AI推進担当★★必要な役割が「組織に入れて動かす人」「つくる人(応用)」「つくる人(基礎)」のどれかを整理しているか?
8AI責任者★★★自社に最初に必要なのは「動かす人」だという前提で要件を組み立てているか?
9AI推進担当★★★求める力を5つの領域(AIツールの実務力/業務プロセス設計/プロジェクト推進/教育・浸透/法規制・倫理)で言語化しているか?
10AI推進担当★★5つの領域のうち、自社に不足している領域を特定し、優先順位をつけているか?
11人事/AI責任者★★AIを起点に業務手順そのものを引き直す役割として要件を定義しているか(IT人材・DX人材の要件と混ざっていないか)?
12AI責任者★★★5つの領域のうち、社内で育てる領域と外から入れる領域の配分を決めているか?

③ AI人材の確保方法を選ぶチェックリスト

採用・育成・外部委託の3つと、それぞれの限界

AI人材を確保する方法は、大きく「採用する」「社内で育成する」「外部に委託する」の3つに整理できます。それぞれに利点がありますが、どれか一つで完結することはまれで、多くの企業に共通の壁が残ります。

確保の方法メリット限界・残りやすい課題
採用する即戦力を外部から迎えられる獲得競争が激しく、処遇や受け入れ体制の整備に時間がかかる。入社後の定着も課題
社内で育成する自社の業務に精通した人材を育てられる成果が出るまで時間が必要。教える側の体制やノウハウも欠かせない
外部に委託する(研修・コンサル+受託)外部の知見を早く取り入れられる助言や研修にとどまり、現場での実装まで届かないことが多い。納品後に運用が止まる例も

4つめの選択肢:製品が決まっているならベンダーに任せる

導入するプロダクトがすでに決まっている場合、そのベンダーに実装を任せるという選択肢があります。自社のプロダクトを携えて顧客の現場に入り込み、課題の発見から実装、運用の定着までを担うFDE(フォワードデプロイドエンジニア)という職種を置くベンダーも増えました。製品を最もよく知る人が現場に入るため、その製品を使える状態にするまでは最短です。

ただし、任せられる範囲と、範囲の外に残る仕事があります。

ベンダーに任せやすいことベンダーの範囲から外れやすいこと
そのプロダクトを現場の業務に適合させるそもそもどのプロダクトを選ぶべきかの判断
既存システムとそのプロダクトの接続複数のツールをまたぐ業務プロセスの再設計
導入部門での運用開始と初期の定着部門をまたいだ全社への展開
製品の使い方に関する現場教育自社の人材が自走できる状態までの引き継ぎ

範囲の外に残る仕事は、製品を売る立場からは担いにくく、かといって外部に丸ごと委ねると社内にノウハウが残りません。この部分を誰が持つのかを決めないまま依頼すると、最初に導入した業務から先へ進まなくなります。FDEという職種の構造と任せられる範囲の詳細は、別記事「FDEとは?年収・必要スキル・キャリアパスと企業が確保する方法」で解説しています。

外部の担い手を迎える前に決める4つのこと

ベンダーのFDEでもそれ以外の形でも、外部の担い手を現場に入れる前に決めておくべきことは共通しています。

  • 現場とデータへのアクセス範囲:業務を観察できず、データに触れられなければ、課題の定義そのものが始まらない
  • 意思決定をどこまで委ねるか:現場で判断して手を動かせることがこの役割の価値。持ち帰って稟議に回す前提だと速度が出ない
  • 成果の測り方:①で定めた指標を、着手前に外部の担い手とも合わせる
  • 引き継ぎのゴール:最終的に自分たちで回せる状態を、業務と期限で定義する

この4点が曖昧なまま人を入れると、優秀な担い手であっても成果は出ません。逆にここが決まっていれば、外に任せる部分と社内で持つ部分の線引きも自然に決まります。

なお、これらの手段は「どれか一つを選ぶもの」ではありません。即戦力の確保には採用や外部の担い手を、中長期の組織力強化には社内育成を、というように組み合わせるのが現実的です。次の④・⑤では採用・育成それぞれの実務を、⑥ではどの手段を選んでも残る「実行の空白」への対処を扱います。

No担当重要度チェック項目
13人事/AI責任者★★「採用」「社内育成」「外部委託」の3つを、それぞれの限界まで含めて比較しているか?
14人事/AI責任者★★即戦力が必要か、中長期の育成が必要かで、優先する手段を決めているか?
15AI推進担当★★★研修・コンサルに委ねる範囲と、現場で実装を担う範囲を分けて定義しているか?
16AI責任者★★導入する製品が決まっている領域を、そのベンダーのFDEに任せる選択肢を検討したか?
17AI責任者★★★ベンダーの範囲外に残る仕事(製品をまたぐ業務設計/他部門への横展開/社内への引き継ぎ)を誰が持つか決めているか?
18AI責任者★★複数の手段を組み合わせる前提で設計しているか(どれか一つで完結させようとしていないか)?
19経営層確保にかける予算とスケジュールの目安を決めているか?
20経営層/AI責任者★★★外部の担い手を迎える前に、現場とデータへのアクセス範囲・意思決定を委ねる範囲を決めているか?

④ AI人材の採用による確保のチェックリスト

採用は即戦力を迎えられる一方、獲得競争が激しく、入社後の定着まで見越した準備が欠かせません。求人要件が曖昧なまま募集を始めると、応募が集まらないか、期待とずれた人材を採ってしまいます。

選考で見るべきは、扱える技術スタックの一致ではありません。業務を観察して詰まりを特定し、手順を組み替えて成果を出した経験があるかどうかです。②で整理した5つの領域のうち、自社に不足している領域に照らして基準をつくると、判断がぶれにくくなります。

採用できたとしても、それで終わりではありません。専門性の高い人材ほど、「何を任され、何を成果として評価されるのか」が不明確だと力を発揮しづらくなります。要件定義から入社後のオンボーディング、評価設計までを一連の流れとして準備しておくことが必要です。

No担当重要度チェック項目
21人事★★★求める人材像を求人要件として具体的に言語化しているか?
22人事★★AI人材の採用市場の相場(報酬水準・獲得競争の状況)を把握しているか?
23人事/現場★★★選考で「業務を組み替えて成果を出した実績」を見極める基準を用意しているか?
24現場マネージャー★★入社後のオンボーディングと立ち上がりまでの支援を設計しているか?
25人事★★定着に向けた評価・キャリア設計と、他部署との受け入れ体制を整えているか?

⑤ AI人材の社内育成による確保のチェックリスト

社内育成は自社の業務に精通した人材を育てられる一方、成果が出るまで時間がかかります。陥りがちなのが、外部研修やeラーニングを受講させただけで「育成した」と見なしてしまうことです。知識を学ぶ研修と、実際の業務でAIを使いこなす経験は別物であり、後者を積む機会がなければ学んだ内容は定着しません。

育て方は座学ではなく、実際の案件に当てることです。対象の業務を一つ決め、実装まで到達させる。たとえば見積書の作成と社内確認に毎日1〜2時間かかっているなら、その一連の流れをAI前提で引き直し、現場が使う状態まで持っていく。この一巡を経験した人は、次の業務を自分で選べるようになります。逆に研修だけを重ねても、実装の判断は身につきません。

②で触れたとおり、社内で育てるのに向くのは業務プロセス設計と教育・浸透の領域です。ここに育成対象を寄せ、AIツールの実務力と実装は外から入れて進め方ごと社内に移すほうが、全体としては速く済みます。

育成計画を立てないまま時間が過ぎることは、そのまま人材不足の一因にもなっています。IPAの調査では、推進人材が不足していると答えながら人材確保に動いていない企業が19.4%ありました(出典:IPA「DX動向2025」、2025年6月公表)。

No担当重要度チェック項目
26人事/AI責任者★★育成対象者とリスキリング計画を定めているか?
27現場マネージャー★★★研修だけで終わらせず、対象業務を一巡させて「現場が使う状態」まで到達させる設計にしているか?
28AI責任者★★★社内で育てるのに向く領域(業務プロセス設計・教育/浸透)に育成対象を寄せているか?
29AI推進担当★★教える側(社内の指導体制・メンター)と、進捗を確認する仕組みを確保しているか?
30人事★★育成の成果を「実装まで到達した業務の数」で測っているか?

⑥ AI活用を実装・定着させるチェックリスト【最重要】

「実行の空白」は、どの確保方法を選んでも残る

多くの企業が、試験的な導入(PoC)までは到達します。止まるのはその先です。PoCの成果が全社に広がらない。AI推進室や推進担当を置いたのに、現場での実行が進まない。採用・社内育成・外部委託のどれを選んでも残るこの状態が、「実行の空白」です。

止まっているのは日本企業だけではありません。S&P Global Market Intelligenceが2025年3月に公表した調査(北米・欧州、回答者1,000人超)では、AIの取り組みの大半を中止した企業が42%と、前年の17%から急増しました。PoCの平均46%は、本番に至る前に打ち切られています。

AIの取り組みの大半を中止した企業は前年の17%から42%に急増し、試験的な導入(PoC)の平均46%が本番に至る前に打ち切られている
出典:S&P Global Market Intelligence 調査(2025年3月公表、北米・欧州の回答者1,000人超)をもとに作成

この空白が生まれる背景には、共通の構造があります。採用・育成・外部委託は、いずれも「人を確保すること」に主眼を置きます。一方で、確保した人材が実際に現場でどう動き、どう成果を出すかという実行のプロセスは、確保とは別に設計しなければ埋まりません。優秀なAI人材を確保できても、その人が孤立して構想を練るだけの状態では、現場は変わりません。

埋めるべきは職種の空席ではなく、構想と定着のあいだの工程

言い換えれば、これまで「AI人材」は採用・研修・派遣という確保の文脈で語られてきました。しかし本当に不足しているのは、現場に入り込んで手を動かし、実装と定着まで担える存在です。埋めるべきは職種の空席ではなく、構想と定着のあいだに空いた実行の工程です。

この工程の評価は、納品物が完成したかではなく、業務が変わったかで決まります。システムが動いても、現場が使わなければ成果はゼロです。そのためこの仕事には、「新しいやり方は面倒だ」という現場の抵抗との対話が含まれます。技術的な作業だけを切り出せない工程だという点が、外部委託で埋まりにくい理由でもあります。

プロのAI人材が社内に入り込むという選択肢

この空白を埋める考え方として広がりつつあるのが、プロのAI人材が社内に入り込み、社内人材と一体となって全社のAI活用・浸透を実現するという選択肢です。外部の専門家に委ねて待つのでも、自前の育成が実るのを待つのでもありません。社内の一員のように迎え入れ、構想から実装、定着までを一緒に進めます。

関わり方は、社内にどれだけ担い手がいるかで決まります。社内に動ける人がまだいない段階ならプロが主体となって進める「まるごと推進」、担い手の候補がいるならチームを組んで推進の型を渡す「協働」、すでに動ける人がいて知識だけが足りないなら伝えることに主眼を置く「伝授」です。

入り方も選べます。経営者やAI責任者の判断を支える「右腕型」、やることが決まっている案件の実装を担う「プロジェクト型」、各部署のマネージャー直下に入って現場の推進を支える「部署別型」。どの形でも、社内に入り込んで一緒に動く点は変わりません。

外部の力を借りる場合の見極めどころは3つあります。採用に数か月かける前に、実行できる人がすぐ入って着手できるか。進め方やノウハウが社内に残るか。そして、どのような人材が、どの稼働範囲で、いくらで入るのかが事前にわかるか。この3点は、下の項目にもそのまま含めています。

No担当重要度チェック項目
31AI推進担当★★★試験的な導入(PoC/概念実証)から全社展開へ移る条件を、着手前に決めているか?
32AI責任者★★★現場に入り込んで手を動かし、実装まで担える実行体制があるか?
33AI推進担当★★★AI推進室・推進担当を置いたあと、現場での実行を誰の手で進めるかを明確にしているか?
34AI責任者★★★構想と定着のあいだの工程(実行の空白)を、誰が持つか決めているか?
35AI責任者★★プロのAI人材と社内人材の関わり方(まるごと推進/協働/伝授)を、社内の担い手の有無から選べているか?
36AI責任者★★組織の状況に合わせた入り方(右腕型/プロジェクト型/部署別型)を検討しているか?
37AI推進担当★★★外注して終わりにせず、進め方やノウハウが社内に残る仕組みがあるか?
38AI責任者★★★引き継ぎのゴール(どの業務を、誰が、いつまでに自分たちで回せる状態にするか)を定義しているか?
39現場マネージャー★★現場でAIを使い続けるための運用ルール・業務フローを整備しているか?
40現場マネージャー★★「新しいやり方は面倒だ」という現場の抵抗に向き合う担い手を置いているか?
41経営層★★外部人材を活用する場合、どのような人材が、どの稼働範囲で、いくらで入るのかが事前に明確か?
42AI推進担当実装対象の業務範囲を広げる際、次のフェーズの計画をあらかじめ描いているか?
43AI責任者★★自社だけで自走できる状態(スキルトランスファーの完了)を最終目標として設定しているか?

⑦ AI活用の効果測定と全社展開のチェックリスト

実装・定着まで進めたら、次は効果を可視化し、成功パターンを他部署へ広げる段階です。ここでの振り返りが、AI活用を「一部署の取り組み」から「全社の当たり前」に変える分岐点になります。

測る指標は、①で決めたものをそのまま使います。段階をまたいで指標が変わると、着手前との比較ができなくなります。効果測定を怠ると、成果の有無を判断できないまま、取り組みだけが残ります。

とくに、経営層への報告に投資対効果(ROI)を示せないと、次の段階への投資判断が得られず、せっかく実装した取り組みが1回限りで終わります。定量的な効果測定と、それを踏まえた次の展開への合意形成をセットで行うことが、全社への浸透につながります。

No担当重要度チェック項目
44AI推進担当★★★①で定めた指標で、AI活用の効果を定量的に測定しているか?
45経営層★★★投資対効果(ROI)を可視化し、経営に報告できているか?
46AI推進担当★★KPIに対する成果を定期的に振り返り、改善のPDCAを回しているか?
47AI責任者★★一部署での成功事例を他部署へ横展開する計画と、その担い手がいるか?
48AI推進担当★★実装で得たナレッジを社内に蓄積・共有する仕組みがあるか?
49AI責任者★★成果をもとに、次の対象業務・次の投資判断につなげているか?
50経営層/AI責任者★★全社のAI活用・浸透に向けた中長期のロードマップを描いているか?

AI人材のチェックリストに関するよくある質問

Q. このチェックリストは、どこから使えばよいですか?

全50項目のうち、重要度★★★の22項目を先に通してください。そのうえで、章ごとにチェックが付いた項目の割合を出すと、最も低い章が自社のボトルネックです。多くの企業が止まりやすいのは、⑥「実装・定着」の段階です。

Q. AI人材の要件定義は、何から書けばよいですか?

職種名からではなく、対象業務から書きます。まず対象業務を一つに絞り、次に必要な力を5つの領域(AIツールの実務力/業務プロセス設計/プロジェクト推進/教育・浸透/法規制・倫理)に分解し、そのうち社内で育てる領域と外から入れる領域を決める。この順序で書くと、求人要件と外部活用の範囲が同時に決まります。

Q. AI人材は採用と育成のどちらで確保すべきですか?

どちらか一方では埋まりません。業務プロセス設計と教育・浸透は自社の業務を知る人ほど有利なため社内育成が向き、AIツールの実務力と実装は外から入れたほうが速く進みます。二択ではなく、配分の問題として捉えるのが現実的です。

Q. 社内にAIに詳しい人がいない状態でも、このチェックリストは使えますか?

使えます。むしろ、担当欄を見て「決める人が決まっていない項目」を洗い出すことが最初の成果になります。詳しい人がいないことより、実行の工程を誰が持つかが決まっていないことのほうが、進まない原因になりやすいためです。

まずは重要度★★★の22項目から始める

AI人材の確保は、「採る」「育てる」だけでなく、「実装・定着まで誰が担うか」まで含めて設計することが、成果への近道になります。まずは重要度★★★の22項目で、自社の現状を確認してみてください。

多くの企業で最後まで空くのは⑥です。①〜⑤で目的・人材像・確保方法を整理したうえで、⑥の項目を重点的に確認してください。実行の空白を誰が担うかが決まれば、外から迎える人の要件も、社内に残すべき役割も、おのずと定まります。

まずは自社のどの業務のどの課題からAIを実装するかを一つ定め、そこに実行できる人を置くことから始めてください。AI推進を、外に委ねて待つのではなく、中に入って一緒に動かす。このチェックリストが、その設計図になれば幸いです。

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